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東京地方裁判所 昭和36年(行)19号 判決 1963年5月30日

判   決

東京都豊島区高田南町一丁目二〇六番地

原告

株式会社開新社

右代表者代表取締役

金子防

右訴訟代理人弁護士

藤原義之

東京都千代田区大手町一丁目七番地

被告

東京国税局長

武樋寅三郎

右訴訟代理人弁護士

津野茂治

右指定代理人大蔵事務官

松富善行

右同

阿蘇谷博

右当事者間の昭和三六年(行)第一九号法人税審査決定取消請求事件について、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

原告の昭和三二年五月一日から昭和三三年四月三〇日までの事業年度の法人税につき、(一)豊島税務署長が、昭和三四年三月一七日付をもつてなした、原告の右事業年度の所得金額を金三、八七四、四〇〇円、法人税額を金一、三六一、七七〇円とする旨の更正処分及び過少申告加算税額を金二八、一〇〇円とする決定のうち、所得金額金三、一六八、六〇〇円、法人税額金一、〇九三、五六〇円、過少申告加算税額金一四、七〇〇円をこえる部分及び(二)被告が昭和三五年一一月二八日付でなした原告の審査請求を棄却する旨の決定のうち、右各金額をこえる部分を棄却した部分は、いずれもこれを取消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、主文と同旨の判決を求め、その請求の原因として、次のとおり述べた。

一、原告は、脱脂綿、ガーゼ等の製造販売業を営む株式会社で、昭和二三年一〇月の設立当初より旧薬事法(昭和二三年法律第一九七号、以下同じ。)第二六条による医薬品製造業者として、厚生大臣の登録を受け、毎年その更新を受けて今日に至つたものであるが、昭和三二年五月一日より昭和三三年四月三〇日に至る事業年度(以下、本件事業年度という。)の法人税につき、同年六月三〇日、所得金額を金二、二九七、二六二円、法人税額を金七九九、四八〇円として確定申告をしたところ、豊島税務署長は、昭和三四年三月一七日付で、所得金額を金三、八七四、四〇〇円、法人税額を金一、三六一、七七〇円とする更正処分及び過少申告加算税額を金二八、一〇〇円とする旨の決定(以下、これを併せて本件更正処分という。)をなし、同月一八日原告に通知した。そこで原告はこれを不服として同月三〇日、被告に対し審査の請求をなしたところ、被告は、昭和三五年一一月二八日付、右審査請求を棄却する旨の決定(以下、本件審査決定という。)をなし、同月二九日原告に通知した。

二、しかしながら、本件更正処分及びこれを認容した本件審査決定は、次の理由により違法である。

本件更正処分の通知書によると、豊島税務署長は、別紙第一表記載のような加除計算のもとに本件更正処分をなしたものであるが、原告は右加除計算のうち、加算の部「交際費損金不算入額金一、〇五一、七八二円」を除くその余の計算についてはこれを認め、本訴においてその当否を争わないが、右交際費損金不算入額についてはこれを争う。すなわち、豊島税務署長は、原告の営む事業が「衛生材料製造業」であると認定し、租税特別措置法(但し、昭和三四年三月三一日法律第七七号による改正前のもの、以下同じ。)第六二条第一項第一号、同法施行令(昭和三四年政令第八四号による改正前のもの、以下単に施行令という。)第三八条第一項第一二号を適用して、交際費の損金算入限度額を算出し、その結果、原告の交際費のうち、金一、〇五一、七八二円を損金不算入額として加算し、所得の計算をなしたが、原告の営む事業は、「衛生材料製造業」(施行令第三八条第一項第一二号の「前各号に掲げる事業以外の事業」)ではなく、同項第一〇号の「医薬品製造業」であるから、右加算額の計算は誤りである。

すなわち、施行令第三八条第一項第一〇号の「医薬品」なる言葉の意味については、施行令になんらの定義もないが、旧薬事法第二条第四項第一号によると、「医薬品」とは公定書に収められたものをいい、同条第八項によると、公定書とは薬局方、医薬品集又はこれらの追補をいい、更に同条第九項によると、薬局方又は医薬品集とは日本薬局方又は国民医薬品集の最新版をいうことになつて居り、原告が製造する脱脂綿及びガーゼは、いずれも日本薬局方に収められているから旧薬事法による「医薬品」に該当し、したがつて原告は「医薬品製造業者」といえる。さればこそ、原告は、前記のごとく、設立以来同法第二六条により「医薬品製造業者」として厚生大臣の登録を受けて毎年その更新を受け、今日に至るまで同法による厚生大臣の規整のもとに、脱脂綿、ガーゼの製造販売業を営んで来たものである。このように「医薬品」及び「医薬品製造業」の意味は、旧薬事法上明定されているが、他方、施行令第三八条第一項第一〇号の「医薬品製造業」については施行令上、特にその意味について定められていないのであるから、特別の理由がない限り施行令の「医薬品製造業」も、薬事法のそれと同一の概念であると解すべきは当然である。

そこで、本件事業年度における原告の取引金額金三五二、八九九、五五九円及び損金計算上の交際費額金三、一六九、一七九円を基礎にして、租税特別措置法第六二条第一項第一号、施行令第三八条第一項第一〇号を適用して損金不算入額を計算すると、別紙第二表原告主張欄記載のとおり、金三四五、九八三円となり、更正決定における交際費損金不算入額金一、〇五一、七八二円との差額金七〇五、七九九円は、損金に算入されるべき金額となる。したがつて、更正決定における所得金額金三、八七四、四〇〇円より右差額金七〇五、七九九円を差引いた金三、一六八、六〇〇円(ただし、一〇〇円未満は切捨。なお原告の昭和三七年七月一八日付準備書面によると、更正決定の所得金額を金三、八七四、四三〇円として計算しているが、右は明らかな記載の誤りで、上記のごとく主張するものと認める。)が本件事業年度における原告の所得金額であり、これの法人税額及び過少申告加算税は、それぞれ別紙第三表原告主張欄記載のとおり金一、〇九三、五六〇円及び金一四、七〇〇円となる。

三、しかるに右金額をこえ、原告の本件事業年度における所得金額を金三、八七四、四〇〇円、法人税額を金一、三六一、七七〇円、過少申告加算税額を金二八、一〇〇円と算定してなした本件更正処分及びこれを認容した本件審査決定は違法であるから、更正処分中の超過部分及び審査決定中の超過部分の取消しの請求を棄却した部分の取消しを求める。

四、被告の主張に対する反論

(一)  被告は用語の通常の意味においては、脱脂綿、ガーゼは「医薬品」に含まれず、衛生材料にすぎないと主張するが、用語の通常の意味というものは、必ずしも、被告主張のごとく、はつきり定まつたものではなく、時と場所、人を異にするにつれて、広義にも、狭義にも使用されるものである。まして、「医薬品」なる用語については、すでに薬事法において、その定義が公権的に定められているのであるから、施行令において、これを排除しようとするならば、別に「医薬品」なる用語についての定義を定めるべきである。旧薬事法は、「薬事を規整し、これが適正を図ることを目的とする」ものであり、同法による「医薬品製造業者」はその事業活動のすべてを同法によつて規整されて居り、国の徴税は、まさに同法によつて事業活動を規整されている医薬品製造業者に対してなされるのであるから、同法による「医薬品製造業者」と、施行令第三八条第一項第一〇号の「医薬品製造業者」とは同一であると解すべきは当然である。

日本標準産業分類表において、「繊維製衛生材料製造業」が化学工業たる「医薬品製造業」と別個に扱われていることは被告主張のとおりであるが、施行令第三八条第一項の事業種目の分類が、行政管理庁の制定する右産業分類表によるべきことについては、なんらの法的根拠もないし、右産業分類表なるものは、元来統計法に基づく統計調査のために制定されたものであるから、この目的以外の目的のために使用されるべきものではない。

(二)  被告は、脱脂綿、ガーゼの製造業と化学的医薬品製造薬の交際費支出の実情に差異がある旨主張するが、両者の販売対象は同一であつて、交際費支出の実情において異なるところはないのであるから、交際費の損金算入限度額の算出については、両者は同一に扱われてしかるべきである。

立証(省略)

被告訴訟代理人は、「原告の請求はいずれもこれを棄却する訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、答弁として、次のとおり述べた。

一、請求原因第一項は認める。「ただし、原告がその主張どおりの厚生大臣の登録を受け、毎年その更新を受けて現在に及んだことは不知。)

同第二項のうち、本件更正処分が別紙第一表記載のような加除計算のもとになされたこと、右加除計算のうち、加算の部「交際費損金不算入額金一、〇五一、七八二円」が原告主張のような計算に基づいて算出されたこと、原告の本件事業年度における取引金額及び損金計算上の交際費額が原告主張のとおりの金額であること、原告の交際費損金不算入額及び所得金額、法人税額、過少申告加算税額の計算関係は認めるが、その余は争う。同第三項は争う。

二、原告の営む脱脂綿、ガーゼの製造業は、施行令第三八条第一項第一〇号の「医薬品製造業」ではなく「衛生材料製造業」であつて、同項第一二号の「前各号に掲げる事業以外の事業」に該当する。

(一)  言語の通常の意味においては、脱脂綿、ガーゼは「医薬品」に含まれず、衛生材料にすぎない。すなわち、物質の構造からみて、「医薬品」は一般に化学工業工程により生産される化学工業製品であるが、脱脂綿、ガーゼは、その原料が綿花であり繊維工業工程により生産される繊維製品である。また、用法からみても、前者は直接医薬としての効能を有するものであるが、後者は直接に医薬としての効能を有するものではなく、単に医薬の補助材料として使用されるにすぎない。したがつて、脱脂綿、ガーゼ製造業は、原告が自ら法人税の確定申告書の事業種目に記載したとおり、衛生材料製造業に該当する。

しかして、脱脂綿、ガーゼの製造業は、統計法上も「衛生材料製造業」として「医薬品製造業」と別個に取り扱われている。統計法に基づいて定められている「統計調査に用いる産業分類並びに疾病、傷害及び死因分類を定める政令(昭和二六年政令第一二七号)第二条の規定に基づく分類の名称及び分類表」(昭和二六年統計委員会告示第六号、昭和三二年五月一日行政管理庁告示第一九号改正。)すなわち日本標準産業分類(以下統計法上の分類という。)においては、

大分類(F)製造業

中分類(20)繊維工業(衣服、その他の繊維製品を除く。)

小分類(209)その他の繊維工業

細分類(2098)繊維製衛生材料製造業

中分類(26)化学工業

小分類(268)医薬品製造業

と定められており、脱脂綿、ガーゼ製造業が「繊維製衛生材料製造業」に含まれていることは疑問の余地がない。

ところで、施行令第三八条第一項に定める事業種目の分類において「医薬品製造業」の範囲は明定されていないが、それは通常の意味における「医薬品」の概念と、統計法上の分類に従う趣旨において立案されたものであるから、脱脂綿、ガーゼの製造業は、施行令の適用については、第三八条第一項第一〇号の「医薬品製造業」ではなく、同項第一二号の「前各号に掲げる事業以外の事業」に該当するものであることは疑問の余地がない。

原告は、旧薬事法において脱脂綿、ガーゼが「医薬品とされその製造業が「医薬品製造業」とされていることを引用して、施行令の関係でも、この概念に従つて解釈されるべきであると主張するが、右は薬事法という国民の保健、衛生、医療等の見地に基づく特別法の立場においてのみ、前記のような取扱いを受けるものであつて、これを法の目的を異にする施行令の解釈の指針となすことは当を得ない。これに反し、統計法上の分類は、一般的でかつ統一的な分類をしたものであるから、施行令第三八条第一項の解釈において、そのいずれが基準となるべきかは論ずるまでもないところである。

(二)  租税特別措置法ないし施行令が、業種別に交際費損金算入限度額を算定する基準を受けた趣旨は、各業種ごとに交際費支出の実情等を参酌して租税負担の公平を期するという租税における公平の原則のあらわれにほかならないが、脱脂綿、ガーゼの製造業は、その性質上、化学工業の尖端を行く「化学的医薬品製造業」と比較して、交際費の支出が極めて少額であるのが企業における実情である。されば、施行令の適用については脱脂綿、ガーゼの製造業を「医薬品製造業」と区別して扱うのが、より合理的な取扱いというべきである。

三、そこで、租税特別措置法第六二条第一項第一号、施行令第三八条第一項第一二号を適用して、原告の本件事業年度における交際費損金不算入額を計算すると、別紙第二表被告主張欄記載のとおり、金一、〇五一、七八二円となるから、これを加算して所得金額を計算してなした本件更正処分及びこれを認容した本件審査決定には、原告主張のような違法はない。

立証(省略)

理由

原告が、脱脂綿、ガーゼの製造販売業を営む株式会社であること、原告が、昭和三二年五月一日から昭和三三年四月三〇日までの事業年度の法人税につき、同年六月三〇日所得金額を金二、二九七、二六二円、法人税額を金七九九、四八〇円として確定申告をしたところ、豊島税務署長は、昭和三四年三月一七日付で、別紙第一表記載のような計算のもとに、所得金額を金三、八七四、四〇〇円、法人税額を金一、三六一、七七〇円とする更正処分及び過少申告加算税額を金二八、一〇〇円とする旨の決定(本件更正処分)をなし、同月一八日原告に通知したので、原告は、これを不服として同月三〇日被告に対し、審査の請求をしたところ、被告は昭和三五年一一月二八日付で、右審査請求を棄却する旨の決定をなし、同月二九日原告に通知したことは、当事者間に争いがない。

原告は、豊島税務署長の右加除計算のうち加算の部「交際費損金不算入額金一、〇五一、七八二円」を除く、その余の計算については、これを認めているので、本訴の争点は、右交際費損金不算入額金一、〇五一、七八二円の数額が正当であるか否か、の点に帰するわけである。

原告は、脱脂綿、ガーゼは、日本薬局方に収められているところから、旧薬事法(旧薬事法は新薬事法(昭和三五年法律第一四五号)の施行とともに廃止されたが、本件は、もつぱら旧薬事法下における事案であるから以下旧薬事法について論ずる。)第二条第四項にいう「医薬品」に該当し、原告はこれの製造業者として、同法第二六条により厚生大臣の登録を受けたものであるから、原告の営む事業は租税特別措置法施行令第三八条第一項の関係においても、同項第一〇号の「医薬品製造業」に当ると主張するのに対し、被告は、原告の営む事業は、「医薬品製造業」ではなく、「衛生材料製造業」であつて、同項第一二号の、「前各号に掲げる事業以外の事業」に該当すると主張するのでこの点につき判断する。旧薬事法は、薬事を規整し、これが適正を図ることを目的とする法律である(第一条)がその第二条第四項において医薬品の定義を定め、「この法律で「医薬品」とは左の各号に掲げる物をいう。ただし用具を除く。一、公定書(日本薬局方又は国民医薬品集の最新版)に収められたもの 二、人又は動物の疾病の診断、治ゆ、軽減、処置又は予防に使用することが目的とされているもの 三、人又は動物の身体の構造又は機能に影響を与えることが目的とされているもの(食品を除く。)四、前各号に掲げるものの構成の一部として使用されているもの」としており、これを受けて、同法第二六条第一項において、「医薬品……の製造業を営もうとする者は……厚生大臣の登録を受けなければならない。」と規定し、その他、公衆衛生の向上、増進の見地から医薬品の製造、調剤、販売等につき各種の法的規整を設けているのであるが、租税特別措置法施行令第三八条第一〇号の「医薬品製造業」の用語については、なんらの定義もなく、特に旧薬事法と異る概念を採用しているものと認めるべき規定もないので、同施行令の「医薬品製造業」は、旧薬事法第二六条の規定による厚生大臣の登録を受けた「医薬品製造業者」のそれと、同一の意味に解するのが相当である。

被告は、脱脂綿、ガーゼが医薬品として取り扱われるのは、国民の保健、衛生、医療上の見地に基づく薬事法という特別法の立場においてのみそのように取り扱われるものであるから、法の目的を異にする租税特別措置法施行令の解釈の指針とすることは当を得ないと主張するが、前記のごとく、旧薬事法は薬事に関する基本的な事項を定めた法律であり、この法律において「医薬品」の定義が定められ、医薬品製造業者として医薬品の製造が許されるのは、同法第二六条に基づき厚生大臣の登録を受けたものに限り、それ以外のものが製造することは許されないことが定められているのであるから、他の法令において「医薬品」ないし「医薬品製造業」なる言葉が用いられた場合においては、特別の定めのない以上、通常、右薬事法に定められた意味において用いられたものと解するのが自然である。従つて右施行令第三八条第一項の事業種目の分類において、同項第一〇号の医薬品製造業を、旧薬事法に規定する医療品製造業者のそれと区別し、脱脂綿、ガーゼ等の製造業を除く趣旨で規定しようとするものならば、これを明記した規定を設けるべきであつて、かかる規定のない以上両者を同一の用語として解釈するのが相当であるというべきである。

次に被告は、脱脂綿、ガーゼは物質の構造、用法の点からみても通常の用語における医薬品には含まれず、衛生材料にすぎないが施行令第三八条第一項の事業種目の分類は、通常の意味の医薬品の概念と、統計法上の産業分類に従う趣旨のもとに立案されたと主張するが、用語の通常の意味というものは必ずしも一定しているものではなく、ことに医薬品なる用語の意味については、その実体の多様性の故に、被告主張のごとく一義的にこれを定めることはきわめて困難である。さればこそ旧薬事法(昭和二三年法律第一九七号)以前の薬事法制のもとにおいては、医薬品なる用語の意味については、もつぱら社会通念にまかされていたが、旧薬事法においてはこの点を改め、新たに医薬品の定義を設けて概念の内容と範囲を明定したのである。なるほど、脱脂綿、ガーゼの原料は綿花であつて、化学工業工程により生産される化学工業製品ではなく、又用法も、直接疾病の治ゆ、軽減に役立つものとはいえないかもしれないが、他面、被告主張のごとく、化学工業の工程により生産されるもののみが医薬品であるともいえないし、又効能の面からいつても、何が直接的で、何が間接的であるかは必ずしもはつきりしたものとはいえないから、ただこれだけでは脱脂綿、ガーゼが通常の意味において、医薬品の概念に含まれないとは直ちに断定できない。また旧薬事法は、その第二条第四項において、医薬品の定義を定めるにつき、前記のごとく、公定書に収められたもの(一号)と、そうでないもの(二、三号)とに分けているが、右は同項の規定の仕方からいつても、医薬品の特質である効能の客観性という見地からみて最も妥当性の広いものからこれを把握し、その順序に従つて医薬品を掲げているものと解されるが、ことに、公定書すなわち、日本薬局方及び国民医薬品集に収められている医薬品については、その強度、品質、及び純度につき厳格な基準が定められており、右基準に適合しないものは、その製造、販売ばかりでなく、その授与、輸入、貯蔵、陳列等も禁止されている(同法第三〇条)のであるから、公定書に収められたものは医薬品としての特質を最もよくそなえているものといえる。しかるに脱脂綿、ガーゼは、古くから日本薬局方に収められているものであるから、このような点からみても単に、これらのものの原料が綿花であり、又用法の点からいつて、直接疾病の治ゆ、軽減に役立つものではないというだけでは、脱脂綿、ガーゼが一般的な意味において、医薬品なる概念に含まれないということはできないのである。

さらに統計法上の分類すなわち、日本標準産業分類表によると、繊維製衛生材料製造業が、化学工業たる医薬品製造業と別個に扱われていることは被告主張のとおりであるが、同分類表はその性質上統計調査の目的から一定の基準に基づいて、各事業所において行われる経済活動によつて産業の分類をしたにすぎないものであるから、右分類が広く一般的な見地からみても普遍妥当的なものであるか否かは別問題である。(たとえば、同分類表の大分類(F)製造業、中分類(26)化学工業のうちには、通常の観念においては、中分類(27)石油製品、石炭製品製造業、同(28)ゴム製品製造業、同・窒業、土石製品製造業のうちのあるものが含まれる場合があるが、これらのものについては、化学工業とは別個の分類がなされている。のみならず施行令第三八条第一項の事業種目の分類と、前記分類表の産業分類とを比較検討しても必ずしも両者が同一既念を使用して分類を行つているものとはいえない。たとえば施行令第三八条第一項第二号の「貿易業」、第五号の「電気供給業」、第七号の「第一次金属製造業」「ガス供給業等」については、右分類表では、そのような分類がなされていない。)

右のように、医薬品なる用語の意味が一般的には必ずしも一定しているものではなく、又統計法上の分類なるものも、その目的から一定の基準に基づいて分類を行つたものにすぎず、一般的な見地からは必ずしも妥当性を有するものでない以上、被告主張のごとく、前記施行令第三八条第一項の事業、種目の分類が、通常の意味における医薬品なる概念と、統計法上の産業分類に従う趣旨のもとに立案されたもの(証人(省略)の証言中には、これに符合する供述があるである。)としても、単にそれだけでは、施行令第三八条第一項第一〇号の医薬品製造業の「医薬品」なる既念が、旧薬事法第二条第四項所定の「医薬品」の定義を排し、脱脂綿、ガーゼを除く趣旨で規定されたものと解することはできない。

さらに被告は、脱脂綿、ガーゼの製造業者を施行令第三八条第一項第一〇号の医薬品製造業と区別すべき実質上の理由として、脱脂綿、ガーゼ製造業は、化学的医薬品製造業と比較して、交際費の支出が極めて少額である旨主張し、証人(省略)の証言には右主張に符合する供述があり、又同証人の証言(第一回)により真正に成立したものと認められる乙第一号証(脱脂綿、ガーゼ、繃帯等衛生材料製造業者と医薬品製造業者の交際費比較表)によると、化学的医薬品製造業者の二六社平均の収入金額に対する交際費支出の割合は一、七八パーセントであるのに対し、脱脂綿、ガーゼ、繃帯等製造業者一一社平均のそれは〇、六八パーセントにすぎない旨の記載があるが、他方同証人の証言(第一、二回)によると、一般的に化学的医薬品製造業者は、脱脂綿、ガーゼ、繃帯等の製造業者に比し、資本金が大であつて、右交際費比較表においても、前者は全部資本金が金二、〇〇〇、〇〇〇円以上であるのに対し、後者は、右比較表作成の基準時とした昭和三六年当時において、順号(4)のD社以外は全部それ以下であることが認められ、資本金の多寡によつても収入金額に対する交際費支出の割合が異ることも考えられるから、右比較表は、両者間の交際費支出の比較表として必ずしも正確な資料とはいえないし、仮りに被告主張のような事実があるとしても、それは法令の内容の当否の問題であつて、これによつて前記判断を左右するものではない。従つて被告の右主張も理由がない。

以上説明したように、租税特別措置法施行令第三八条第一項第一〇号の医薬品製造業は、薬事業第二六条により厚生大臣の登録を受けた医薬品製造業者のそれと、同じ意味に解するのが相当であるところ、原告は、医薬品製造業者として、同条による厚生大臣の登録を受け、毎年その更新を受けていたものであることは、成立に争いのない甲第一号証及び同第三号証により明らかであるから、原告の営む脱脂綿、ガーゼの製造業は、施行令第三八条第一項第一〇号の医薬品製造業に該当するものというべきである。そこで、租税特別措置法第六二条第一項第一号、施行令第三八条第一項第一〇号を適用して、原告の本件事業年度における交際費損金不算入額を計算すると、別紙第二表原告主張欄記載のとおり金三四五、九八三円となること当事者間に争いがないから、右金額と、更正決定における交際費損金不算入額金一、〇五一、七八二円との差額金七〇五、七九九円が損金に算入されるべき金額となることは計算上明らかである。したがつて、更正決定における前記所得金額金三、八七四、四〇〇円より右差額金七〇五、七九九円を差引いた金三、一六八、六〇〇円(但し一〇〇円未満切捨)が本件事業年度における原告の所得金額となるが、これの法人税額及び過少申告加算税が、それぞれ別紙第三表原告主張欄記載のとおり金一、〇九三、五六〇円及び金一四、七〇〇円となること当事者間に争いがないから、右金額をこえ、原告の本件事業年度における所得金額を金三、八七四、四〇〇円、法人税額を金一、三六一、七七〇円、過少申告加算税額を金二八、一〇〇円と算定してなした本件更正処分及びこれを認容した本件審査決定は違法というべく、右超過部分の取消しを求める原告の本訴請求は、いずれも理由がある。

よつて、原告の本訴請求を認容することとし、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第二部

裁判長裁判官 位野木益雄

裁判官 田 嶋 重 徳

裁判官 桜 林 三 郎

第一表 (所得金額の計算に関する明細書)

第二表 (交際費損金不算入額の計算)

第三表 (法人税額及び過少申告加算税額の計算)

(省略)

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